デザイナーの職業に憧れるけど、自分がデザイナーに向いているかどうかわからないという方は多いです。
実際、デザインを生業にしている私にもさまざまな方からご相談をいただきます。
これまでデザイナーを目指して挫折した後輩もたくさん見てきました。
本記事は、デザイナーに向いている人はどんな人か?について実体験をもとに解説していきます。
デザイナーに向いている人の条件とは?
以下の条件が2つ以上当てはまる方は、デザイナーにかなり向いていると思います。
- 世の中にあるデザインに魅了されることがある
- 学びを「遊び」に変えられる
- 図工や美術の時間が楽しかったと思えた
- 他人からの否定に対して聞く耳を持てる
上記4つの条件について1つずつ詳しく解説していきます。
1.世の中にあるデザインに魅了されることがある
私たちの暮らしの中には、テレビやネットなどの番組やCM動画、町中のポスター、モダンなカフェ空間や建築物、おしゃれな雑貨や服などさまざまなデザインが身近に存在しています。
その中であなたが気に入ったデザインを見つけたとき、そのデザインを深々と観察し、どこが自分にとって気に入ったポイントかを考察されたことがある方は、デザイナーの素養があると思います。
例えば、電車内のポスターを見たときにこんな風に思った方はいませんか?
- かっこいい、かわいい
- 色合いが綺麗でセンスを感じる
- 文字のデザインがおしゃれ
- 見ていて爽快な気分になる
- イラストのテイストが好き
- インパクトが合って引き込まれる
- 内容がわかりやすい
- キャッチコピーで言いたいことが理解できる
- ターゲットが明確
- 購入させるための工夫が秀逸
- ダサい、下手
- レイアウトのバランスが悪い
- 色合いがダサい
- 何を言いたいのかわからない
- 買いたい(行きたい)とは思わない
上記のように、普段からデザインに対して興味を持って「見ることが楽しい」と思われている方は、自然とデザイナーのスキルを日々養っている方なので、デザイナーに向いている方だと言えます。
「ただ何となく見ている」という方でも、上記のように分析してみることを行ってみて「楽しい」と感じられたのであれば、デザイナーになっても「仕事が楽しい」と思うことが出来る方です。そういう方はデザイナーとして「伸びる素質」を持っています。
2.学びを「遊び」に変えられる
次に重要なこととして、デザインを学んでいるときは自然と遊んでいるときと同じ感覚になれるかどうかです。まさに「好きこそ物の上手なれ」ということわざが当てはまります。
デザイナーになるために勉強するには、まず普段の生活で学ぶ時間を作る必要があります。ネットで動画や漫画を観たり、ゲームをしたりする息抜きの時間を、デザインツールの勉強に充てることが必要です。
すべての息抜きの時間をデザインの勉強に充てる必要はありません。ですがデザインを学ぶ時間を苦痛に感じて長く続けられないようでは、たくさんの壁にぶつかった時に乗り越えることが出来なくなります。基本的にデザインを学ぶ=楽しいという感覚を持てるかどうかがカギになります。
ちなみに、実力あるデザイナーは体力の続く限り作業をし続ける方が多いです。デザイン作業には明確な終わりがなく、作業を仕事なのか遊びなのかわからなくなると、いつまでもプランを練り続けたり、作品をブラッシュアップし続けてしまいます。終電の時間や納期の締め切りの時間が作業終了のチャイムであることがほとんどです。
そうして出来上がった作品を、自画自賛したり他人に褒めてもらうことが至福の喜びと感じていらっしゃるデザイナーさんが多いのです。
なのでデザインを学んでいる、スキルを磨いている時間が、自分にとっての「趣味の時間」になった方は、デザイナーとして成長していける方と言えます。
3.図工や美術の時間が楽しかったと思えた
日本は義務教育なので、ほとんどの方が、小学校や中学校の図工や美術の時間を通して「モノづくりの経験」をされた方が多いと思います。
このモノづくりの時間が楽しいと思えた方は、「答えのない仕事に抵抗がない方」だと言えます。
デザインの仕事は、営業職やエンジニアとは違い、明確な評価が数値で出しにくい分野です。
仕事上で答えのない例としては以下となります。
- 営業職のように「ノルマ達成」や「売上契約1位」などのゴールが設定しにくい
- エンジニアや経理業務などのように正確に実行できれば成功という判断基準がない
- デザインの評価は十人十色で、審査する人によって結果が変わる(運にも左右される)
つまり自分のデザインが良かったから、売り上げが上がったという明確な成果を仕事上で計測することが困難なのです。
学校のテストで点数が良かったからやりがいを持てたという人がいると思います。その反面で美術の評価が低かったことで納得がいかずに嫌いになったという方は、デザインを仕事にすると評価されているかいないかが明確につかめないのでストレスが溜まってしまう場合があります。
4.他人からの否定に対して聞く耳を持てる
デザイン業務に挫折してしまう人にある要因として挙げられるのが、「他人からの否定を許せない」という点です。
デザイナーという職業は、芸術家とは違います。
- 売れる商品をデザインする
- クリックされるバナーを作る
- 興味を持たれるようなポスターを作る
これらデザイナーの作業に共通しているのは、見た人(消費者)がどう思うかに合わせてデザインするという事です。
芸術家は自分が良いと思ったものを作ることができます。ですが、デザイナーは自分が良いと思うものや好きなものだけを作る考え方では仕事として成果が出しにくくなります。自分はかわいいデザインにしたいけど、依頼主やターゲットとなる消費者がその思考で共感してくれるとは限りません。
もし自分が良いと思うデザインをした後、それを他人に否定されたときにイライラしたり落ち込んだりするようでは非常に幅の狭いデザイナーになってしまいます。
他人に否定された時こそ、なぜそう思われたのか?何かが足りなかったのではないか?と考察して改善できる柔軟な姿勢がないと、万人受けするデザイン業務が出来なくなってしまいます。
デザイナーに必要な能力は?何を身に付ければよい?
この能力があればデザイナーとして伸びるという要素をご紹介します。
- 観察力
- ヒアリング力
- 分析力
- 描写力(イマジネーション力)
- プレゼンテーション力
1.観察力
何も見ずにはじめからいきなりオリジナルの素敵なデザインを作られる方はごく一握りの天才です。実際そんな方がいるのかどうかもわかりません。
世の中にあるたくさんの作品事例を深く観察し、さまざまな手法を自分の中に取り入れていくことで、センスが磨かれていくことは間違いありません。
かの有名な芸術家のピカソでさえ、若いころはさまざまな作品を大量に模写していたと聞きます。
デザイン業界ではこの知識の量を「引き出し」と言い換えることがあります。いろんなジャンルのデザインをさまざまな手法でデザインしていく際に、頭の中にある多くの引き出しの中から最適なものを取り出して作品に取り入れることが出来るようになれば、デザイナーとしてのスキルが向上していきます。
言わずもがなですが、単に作品をパクるのではなく、あくまで要素や手法を参考にするという意味合いです。
2.ヒアリング力
デザインを仕事にする際に、重要な作業工程として「なぜそのデザインが必要なのか?」という目的の整理が必要になります。具体的には依頼主や消費者にヒアリングして答えを絞り込んでいく作業です。
このヒアリング作業工程を疎かにしてしまうと、やみくもにデザイン作業を行うことになり、成果が出にくい(依頼主が納得しない)デザインになることが多いです。
ヒアリングの項目例
- なぜ(=デザインをする目的)
- 誰に(=ターゲット)
- 何を(=扱う商品の訴求ポイントなど)
- どのように(=予算規模に合わせた方法)
- どこで(=どのメディアで?)
- いつまでに(=納期)
仮に上記のヒアリング結果をもとにデザインを行うことで、依頼主と話をする際に「なぜこのデザインにしたのか?」という事が明確に議論できるようになります。
3.分析力
デザイン作業を始める前にやっておいた方がよい作業として「分析」があります。
どんなデザインコンセプトにするかについて迷う場合は、以下の分析を通して最適なデザインはこれだ!という確証を探すことが分析作業の目的になります。
主な分析項目例
この分析作業を行う項目例は以下となります。
- 消費者動向分析
- ニーズアンケート調査
- 消費者インタビューや座談会
- 消費者行動分析
- ペルソナ分析
- カスタマージャーニー
- など多数
- 競合他社分析
- 他社製品比較
- 店舗陳列状況調査
- ブランドポジションニング調査
- SWOT分析
- サイトアクセス状況調査
- など多数
- デザイントレンド分析
- 売れ筋ランキング動向調査
- 競合他社の業界デザイン調査
- 競合他社クリエイティブ事例
- SNS内のコメント/評価分析
- 同業界の景表法違反事例調査
- など多数
上記をすべて実施するのは、多大なリソースとコストがかかります。必要なものを限られたリソース内で実施し、デザインコンセプトの要因を明確にしてからデザインを行うことで、説得力のあるエビデンス(=証拠)を武器にデザインコンセプトを主張できるようになります。
4.描写力(イマジネーション力)
もっともデザイナーの能力で違いが出るのは、この描写力であることは言うまでもありません。
いかに調査や分析が出来ていても、それらを素敵に具現化する能力がなければ「カタチ」になりません。
ただこの能力は、学習と訓練を繰り返せばだれでも身に着けることは可能です。繰り返しですが、ピカソも模写を繰り返し行うことで描写力を訓練していました。この能力は地道な努力が必要な分野です。
描写力を訓練する方法
描写力を訓練する方法として、私がおすすめするのはさまざまなコンペテションのテーマに挑戦することです。最初のうちは恥ずかしくて提出できなくても、自分の中で挑戦できればそれでも構いません。
具体的にはクラウドソーシングサービスの中にあるコンペに挑戦してみるとよいでしょう。
この描写力を養う挑戦を「楽しい」と感じられるかどうか?が重要で、デザイナーに向いているかどうか自分をテストするいい材料にもなると思います。
5.プレゼンテーション力
最後にデザイナーとして結果を出すために必要な能力として、プレゼンテーション力があります。
端的に言うと、デザインを相手に納得させるための説明能力です。
もし、自分が精魂込めて作成したデザイン案を説明なしに相手に見せても、好き嫌いの判断だけで評価されてしまいがちです。相手のイメージが必ずしも正しいというわけではなく、自分の主張が正しいと思う場合は、しっかりデザイン案について説明できなければなりません。
大抵のデザイン業務の場合、自分がデザインに長けていて、仕事の依頼主(ディレクターやクライアント)は自分よりデザインセンスが劣る場合が多いです。ここでのプレゼンは、これまで述べたようなヒアリングと分析に基づいたデザインコンセプトであると説得力も増して相手を納得させられます。
商業デザイナーは単に綺麗・素敵なデザインをするだけでなく、ビジネスを成長させるための役割としてデザインを行うことを求められます。デザインに込めたプランをしっかりと主張してデザインの内容をブラッシュアップしていくとで有意義な仕事につながります。
デザイナー関連の資格は持っておいた方がよい?
よく色彩検定やウェブデザイン技能検定、インテリアコーディネーターなどの資格を取られる方がいらっしゃいますが、テストに出る内容を丸暗記して合格しても、知識は増えたかもしれませんが、デザイナーの最も重要な能力自体が向上したとは言えません。
一番重要なのは、「オリジナル作品の実績」です。
デザイナーになろうと面接をする際に、「資格は持っていますが作品は特にありません。」となると、面接官はその人がどれだけデザインができるかについて計りかねます。
むしろ資格は持っていないが、未経験でも自分が誇れる具体的なサンプル作品を見せれば採用担当者を安心させることは可能です。
実際、有名デザイナーの方々は実務でスキルを磨いているので、資格などは特に取得せず活躍されています。
デザイン関連資格を取得すれば道が開けるというわけではなく、「予備知識」程度で取得されることをおすすめします。
例外として資格がないと難しいデザイン職
以下のデザイナー職は、資格がないと仕事が出来ない場合があります。
- 建築設計デザイナーとして独立する場合
建築設計デザイン事務所として独立する際には建築士の資格取得が必要です。ただし企業に属している場合や、デザイン事務所内で働く際には必須ではありません。学校に通わず独学で建築デザイナーになったことで有名な「世界の安藤忠雄さん」も、若いころに建築士の資格は取得されています。私の知り合いで建築事務所として独立された方々もたくさんいらっしゃいますが、難しい1級建築士の資格を死に物狂いで取得されていました。
デザイナーを目指される方へ
これまで説明した条件や必要能力に全く抵抗がない方は是非デザイナーを目指していただきたいです。
私は生まれ変わっても必ずデザイナーを職業にすると思います。
そう思えるほどデザイナーは楽しくてたまらない職業なのです。