現在デザイナー職として従事されている方や、これからデザイナーを目指したいと考えていらっしゃる方向けに、デザイナーの仕事がつらいと感じられた時の対処法についてご紹介します。
私は、これまで20年以上企業に所属するデザイナーとして従事している傍ら、副業でデザイナーとしても活動しています。正直つらいと感じたことは何度もありましたが、これまでの歩みを総合的に見ると「楽しい」と思えたことの方が圧倒的に多く、デザイナー職を天職だと感じています。そういったつらさを克服した経験が少しでもアドバイスになれればと思います。
なぜデザイナーの仕事はつらいのか?
他の職種に比べてデザイナーの仕事がつらいと感じる理由は主に以下の3点になります。
- 原因1:終わりがない
- 原因2:明確な正解が出にくい
- 原因3:タスク量が予測しづらい
上記の原因を一つずつ解説していきます。
原因1:終わりがない
デザインの仕事には、作業の明確な終わりがありません。造形を行う上で、見る人を魅了するためにデザインクオリティを高めたり、独創的なアイデアを取り入れたり、複数パターン作成したりしていると、工期がどんどん増えていきます。
デザインが「完成した」というのは、実際の所「この辺まででよいだろう・・・」という自分自身の妥協が落としどころになったり、納期の期限になったとか残業時間がMAXになったというのが、作業を終了する理由になって、「完成した」としているのが実情です。
なので、一生懸命にデザイン業務を行えば行うほど、作業の終わりがなく延々と続いてしまうという状態に陥るため作業時間が膨大になってしまいます。
原因2:明確な正解が出にくい
デザイン作業には、わかりやすい正解やゴールがありません。
例えば、エンジニアの場合は「設計通りに動いた」というのが正解だったり、営業職の場合は売上ノルマ達成というゴールがあったり、経理職の場合は正確な数値計算で決算処理が閉まったなどのわかりやすい評価軸があります。
ですがデザイナー職の正解やゴールは、デザインの依頼主が喜んでくれたとかプロダクト商品の売り上げが上がったなどのゴールはあっても、すぐに答えが出にくかったりします。そのため前述のように正解を模索しながら作業をし続けてしまう傾向になってしまいがちです。
正解が全く見いだせないまま作業が進まず、モニターの前で延々と自問自答しているとあっという間に作業時間が過ぎて行ってしまい、残業時間が増加していってしまいます。
原因3:タスク量が予測しづらい
デザイン依頼の内容は、さまざまなケースがあるため、それぞれ明確な作業量を事前に計りにくい事が多いです。
デザイン作業を開始する上で、何も見ず、何も調べずにいきなり作業を開始してもうまくいかないことが多く、実際に作業を開始する前にさまざまな事前準備作業が必要になります。
また事前準備が終わっていざ作業を開始しても、思ったデザインが出来ずに作業が停滞したり、依頼主からさまざまなチェックバックをもらい作業量が肥大化していったりするために、完成までの作業時間が予測できません。
仮に残業抑制などで作業時間を決められて作業を行ったとしても、制限時間内で作業が終わらず持ち帰ってサービス残業してしまったり、未完成のまま提出してしまったりすることで、周囲の期待に応えられずにプレッシャーを感じてしまったりすることも多いです。
デザイナーの仕事のつらさを軽減する6つの対処法
デザイナーの作業時間やプレッシャーを軽減する方法はたくさんあります。以下のそれぞれの手法を実践してみると、少しずつつらさを軽減させていくことができます。
- ゴールを明確に設定する
- 作業前にヒアリングを徹底する
- 調査・分析を入念に行う
- デザインコンセプトを明確に設定する
- 作業効率を上げる
- 振り返りと改善点を発見する
ゴールを明確に設定する
前述でデザイン作業には明確なゴールが見えにくいと解説しましたが、デザインのゴール設定を無理やり明確にするスキルを身に付けることはできます。ゴールを明確にすることでその後の検討プロセスや作業工数の見積り、ヒアリング内容などの要素が考えやすくなります。
例としては以下になります。
- クライアントから「かっこいいWEBデザインにしてほしい」という依頼を受けた場合
- 競合他社を10社リストアップし、その中で一番かっこいいと思えるデザインを目標にする
- 飲料水(ペットボトル)のデザインを任されたとき
- 売上ランキングで最も売り上げているプロダクトの売上本数を目標にする
- 販促用パンフレットのデザインを依頼されたとき
- パンフレット経由の集客数を数値目標にする
上記は例としてですが、もし明確な目標が立てられないときは、次に解説するヒアリングの段階でゴール内容の解像度を上げる作業を行いましょう。
作業前にヒアリングを徹底する
デザイナーは、依頼主からの指示をもとに作業を行うことが多いですが、この依頼内容が明確でないと、その後の作業が迷走してしまいがちです。
仕事を効率化し、成果を上げるためにはこのヒアリング作業をしっかり行う事が最も重要と言っても過言ではありません。
ヒアリングを徹底するポイントは以下になります。
そのデザインを行う目的は何か?
デザインの業務には必ず目的があります。例えば、「売上を上げたい」とか「ブランドイメージを上げたい」などです。何のためのデザインなのかを明確にしていなければ、必ず目的をヒアリングして明確にしましょう。
そのデザインで何を達成したいのか?
例えば売上を上げたいという目的だったとした場合、そのデザインを行うことでどれくらいの売上増加を目指すのかを明確にしましょう。売上を1~2%上げたい場合と、10~20%上げたい場合とでは、デザインが担う役割の重要度が変わります。
達成する目標が10~20%も売上を上げるとなった場合には、単にデザインのパっと見だけを良くしても目標到達は難しく、プロダクトやサービスの中身も向上していく必要があったり、キャンペーンなどの企画も添えてデザインを行うなどの戦略も必要になってきます。
プランド力を上げたいといった依頼の場合も、どういった印象を与えたいのか?を明確にしましょう。例えば、信頼性の向上、先進性のアピール、若年層ファンの醸成、などさまざまな方向性で達成したいブランドイメージの訴求内容が異なります。
ターゲットは誰か?
デザインを誰に対して行うのか?についても非常に重要です。
大抵の場合、売上向上を考えると老若男女すべての男女年代をターゲットにしたいところですが、デザインの特長などをより表現しやすくするためには、このターゲットもあえて解像度を上げた選定を行うことで、デザイン作業の方向性をより明確にしていくことが可能です。
- メインターゲットは、30~40代の主婦層
- 年収1,000万以上の子育て世帯
- 競合他社のA商品を利用しているユーザ層
などといった形で、よりメインターゲットを絞り込むことで、デザインが持つ機能面やトーン&マナーなどを設計しやすくなります。
ターゲットが好む要素は何か?
デザインの成果を導き出すためには、そのターゲット顧客が最も好むデザインとは何か?を明確にするのが、成功の近道になります。ではどのようにしてターゲットが好む要素を導き出すのかについては、ユーザ調査を行うしかありません。この点については後述します。
優位性や訴求ポイントは何か?
その商材が持つ優位性や訴求ポイントがある場合は、それらを際立たせたデザインを行うことで、成果が出やすくなります。集客チラシ・パンフレットやランディングページのデザインを行う上でも訴求ポイントを見定める戦略的な情報設計を行うことで、デザイン作業がスムーズに進められるようになります。
もし依頼主が、「優位性や訴求ポイントがあまりない」という発言があった場合でも、必ず話し合いを持って訴求ポイントを作るようにしましょう。
優位性や訴求ポイントの例としては以下のようなものが挙げられます。
サンプル例
- ●●エリア店舗数No.1
- 顧客満足度98.5%※20xx年当社調べ
- 創業●●年の老舗ブランド
- 日本最大級の●●数
- 離職率●%以下の超安定企業
- キャンペーン期間中20%OFF
- 購入された方にもれなく●●をプレゼント
優良誤認にならないよう広告表現のマナーに配慮しながら行ってください。特に明確な根拠のない訴求文言や改善効果を保証するような表現はNGです。
競合他社やベンチ―マーク先はどこか?
デザインを行う商材の業界内ポジションを把握してから作業を行いましょう。特にインターネットでの販売商材においては、検索比較を行う消費者が多くいらっしゃいます。
デザインで扱う商材と他社の製品比較を自ら行ったうえで、他社のデザインを超えるものを生み出せるように作業を行いましょう。
その商材の深い情報はあるか?
デザインで扱う商材の情報は依頼主から出来るだけ多く入手するようにしましょう。自分で調べると膨大な時間がかかるため、社内資料でも開発資料でも事業計画書でもなんでもよいので多くの情報を取得してから作業を行うことで、デザイン作業前の検討段階が効率的に進行できます。
調査・分析を入念に行う
デザイン作業前に調査・分析を行うことで、デザイン作業自体の方向性をより明確にすることが可能です。この作業を怠ることで、どんなデザインが有効であるかが見いだせないので、闇雲なデザインを行うことになり、結果として遠回りしてしまうことがよくあります。
主な調査・分析項目は以下になります。
- 市場調査
- 競合調査
- 顧客(ターゲット)意向調査
- デザインした制作物の使われ方
- 他社のデザイン事例(国内外問わず)
この中でも、3と5が特に重要です。3の顧客調査はターゲットの趣味嗜好をもとに適切なデザインが何かについての検討材料になりますし、5の他社デザイン事例はそれらを吟味したうえで他のデザイナーが検討し終わったデザインを観察することができます。
闇雲にデザイン作業を開始するのではなく、これらの調査データをもとにデザインの方向性を見出していくことが近道になります。
デザインコンセプトを明確に設定する
前述までの目的、目標、材料、調査結果をもとに考案したデザインコンセプトがあれば、ロジカルにデザイン作業を進めていくことが可能になります。コンセプトがしっかり構築できていれば、なぜそのカラースキームを使うのか?なぜそのビジュアルを選ぶのか?なぜその情報を盛り込むのか?といったデザインの要素を迷うことなく決めていくことができます。
完成したデザイン案を他者に説明する上でも、論理立てた説明ができるため、周囲を納得させやすくなります。
またコンセプト(=プランニング)を明確にすることは、最後の振り返りや改善点の抽出にも、何を見ればよいのかが把握しやすくなるというメリットもあります。
作業効率を上げる
デザインツールの活用方法を工夫して作業を効率化することで、作業スピードを大幅に上げることが可能です。よく「作業の時短」というキーワードで時間を短縮するためのさまざまなノウハウがインターネット上に掲載されています。
- 繰り返し使うものはデザインライブラリに入れておく
- 自動化アクションを使用する
- ショートカットキーをマスターする
などといった手法を取り入れることで、作業工数を削減していくイメージです。
小さなスキル習得の積み重ねで、どんどん作業スピードが向上していくので、積極的に身に着けるようにするのがポイントです。
またデザインを考える作業においても、デザインのネタ帳として以下のような情報をストックしておきましょう。
- よく使うデザイン素材をストックしておく
- 良質な参考デザインをブックマークしておく
参考となるデザインを都度収集しているようでは時間がかかるため、Pinterestのようなツールを使って、日々発見したものをストックしておく癖をつけましょう。
振り返りと改善点を発見する
デザイン作業が一通り完了した後、再度デザインの作業内容を振り返り、改善点を発見しましょう。
- もっと効率的な作業が出来なかったか?
- デザインの方向性は正しかったのか?
- デザインを見た顧客(身内の関係者でも可)の感想は?
- 売上の変化は?目標数値の初速は?
もし時間に余裕があれば、デザインの改変なども積極的に行いましょう。WEBデザインの場合はABテストという手法もありますので、別パターンを作成して数値比較してみるのも良いと思います。
この反省(PDCAサイクル)が次の似たようなデザイン作業を反復して行う際に、非常に役立ちます。それらを積み上げていくことでどんどん作業不可が軽減されていくのです。
稼働量とコストのバランスを見直してみる
デザイン作業がつらいと感じる要因にモチベーションの低下が挙げられます。その仕事のモチベ―ションを左右する要因の一つに、「給与(対価)の不満」があります。
給与と成果のバランスを見定める
すごく頑張っていても給与が全く上がらないと感じているデザイナーは多いと思います。すべてではありませんが日本は海外と比べてデザイナーの社会的地位が低い場合があります。そのため給与が低く設定されていたり、人事評価が曖昧になっていたりします。
自身のデザイン作業が会社(クライアント)の成長にどれくらい寄与しているのか?について一度計算してみることをおすすめします。
給与は会社の利益を原資としているのは言うまでもありません。従って経営者は会社が儲かっていない場合に給与を上げることは基本ありません。逆に会社が儲かっているのに給与が上がらないのは、デザインの成果を立証していないためとなります。
デザインの成果を立証する方法とは?
デザインの成果を立証することは容易ではありません。
理由はなぜその商品が売れたのか?について純粋にデザインがよかったからと言い切ることが難しいためです。ですが、それらを立証する方法として以下の取り組み例がありますのでご参考ください。
WEBの場合
ABテストなどを通して、デザインによるCV数(顧客獲得数)の数値を計測する
例:1件あたりの獲得単価が150,000円の場合に、獲得数がデザイン改変前に比べて月間20件向上したため3,000,000円/月の広告効果がデザイン改変により達成された。デザイン効果の耐用年数を1年と設定するとトータルで36,000,000円と計算できます。
上記の効果と年収を比べると、成果と給与のバランスが明確になります。
DTPデザインの場合
商品パンフレットや交通広告デザインの場合は、そのツールを経由して商品が売れたかどうかを判定するのが通常では難しいため、顧客アンケートを介して数値を分析するようにしましょう
例:顧客アンケートの結果、デザイン改変前と後では、チラシを見て購入意向に至ったユーザの割合が月間20人向上した。そのため獲得単価150,000円×20人=3,000,000円の広告効果を創出でき、年間で36,000,000円の売上向上に寄与できた。
という成果報告になります。
プロダクトデザインやアパレル系なども同様に顧客アンケートによる数値分析で立証しましょう。
空き時間やプライベートの時間を有効活用する
デザイナーの修行中であれば、会社の仕事以外の時間を有効活用しないと、デザイナーとしての成長は難しいと思います。会社は学校ではないので、作業を行う時間はあっても基本勉強する時間はありません。業務時間外でも自主的にスキルアップを行う習慣づけを身に着けてください。
重要なのはスキルアップの喜びを感じながら、あくまで能動的に動けるかどうかです。初心に帰って探求心を失わないのがポイントです。
トレンド調査を怠らない
デザイン手法のトレンドを常に追いかけましょう。世の中では日々さまざまな手法が生み出されています。
ピンタレストで検索してみたり、「2022年デザイントレンド」などのキーワードで検索したり、大手企業の広告に目を向けたりしながら最新のデザイントレンドを吸収し続けてください。
またデザインのみならず、マーケティング手法や市場の変化、デバイスやプラットフォームの普及状況、若年層の流行なども情報収集する分野になりますので、幅広くトレンドを追いかけましょう。
ツールの習得
デザインツールの習得も時間に余裕がある時に、積極的に行いましょう。突然新しい分野のデザインを受け持つ際に、ツールを使えませんとなると習得に時間がかかります。スキルアップを怠ることなく成長していきましょう。
Howto系記事の学習
通勤時の電車の中や、カフェなどでの食事中にスマホでHowto系の記事を読み漁ることもスキルアップに効果的です。世の中にはデザイン手法について惜しみなく解説してくれている良質な記事がたくさんあります。
仕事が飽きたり、やりがいを感じなくなったら
仕事がつらいと感じたときには、その仕事が嫌いになってしまった場合があります。嫌いになる要因はさまざまですが、仕事(会社)に飽きたとか給与に見合わないなどさまざまな理由が挙げられます。それぞれの悩みに対して、以下の対処を行ってみてはいかがでしょうか?
副業してみる
仕事が飽きたと思われる方は、転職する前に副業を行ってみてはいかがでしょうか?就業規則に副業について記載がある会社が多いので、副業が問題ないか確認してみましょう。現在ではデザイナーとして副業を行うのは比較的簡単です。クラウドソーシングや副業専門の仕事斡旋サービスなどがあるため、自分でリアルな営業をしなくてもネット上に仕事が転がっています。
また副業を通して、さまざまな業界のデザインを行うことで、自然とデザイン経験の幅も増していきます。スキルアップの面でもデザインの副業はお勧めです。
転職してみる
会社の仕事に対して、スキルアップしにくくなったり、人間関係に疲れたなどの理由がある場合は、思い切って転職することをおすすめします。キャリア形成する上で、現在の組織内では限界がある場合があります。主なケースとしてはいかが挙げられます。
- 自分より上のポジションに空きがなくキャリアアップしにくい
- 同じ業務を延々と行っていて仕事の幅が狭くなった
- 自分が一番上になってしまい、教わる先輩がいない
- 給与が上がらなくなった
などさまざまです。こういった問題に対してはなかなか自分の努力では改善しにくいため職場を変えて、心機一転新天地で活躍されたほうが良い場合が多いです。
別のポジション(職種)にトライしてみる
転職するまでではない場合や良い転職先が見つからない場合は、無理に転職するのではなく別のポジションが出来ないか人事や経営者に相談してみましょう。デザイナーの業務だけでなくさまざまな職種を経験することで、自分のキャリアにプラスとなる経験を詰める場合があります。
デザイナーの仕事で一番大切なこと
最後にデザインを仕事にする者として一番大事にすべきことをご紹介します。
自ら「仕事を楽しむ」という発想の転換をしよう
どんなにつらい仕事でも、仕事を楽しむというパラダイムシフトを行いましょう。もともとデザイナーの多くは、デザインや工作が好きだからデザイナーになった方が多いです。ですが、仕事の難しさや周囲の厳しさから挫折してしまうこともあるかと思います。そんな時こそ初心を忘れず、障壁を乗り越えることを楽しむことで、ある程度の悩みは解消されます。仕事=遊びのような感覚で物事に取り組むことが出来れば、ストレスや体力的な疲れは軽減できます。
周囲の環境や人間関係などの障壁に対しても、自ら進んで楽しむことを忘れないでください。